2023/11/16 宿泊記録➁ レトロとは

 なかなかホテルの予約が取れない中で、どうにか今週の宿泊先を決めて安心していたのだが、今晩のホテルを行先でグーグルマップに登録した時に気付いた。

 あっここ前に泊ったことのある、なかなかやっちまってるところだ。

 とは言え、気づいても仕方がないので、向かう。行きながら、そうそう、昔温泉郷でしたって感じで、廃業いたホテルが立ち並んでいる中にあるんだよ。前来た時も、うわーって思ったんだよ。そうそう。

 私はたまに旅館&ホテルの文句を書いているように思えるかもしれないが、私は個人的には旅館は好きである。大学を卒業したてで就職するまでの繋ぎとして携帯の繋がらない山奥の温泉旅館で住み込みで働いていたくらいである。

 妻もそこに連れて行って一緒に働いたこともある。当時まだ妻ではなかったが、確かその時から仕事が適当なので怒られていた気がする。

 だから、仕事として泊まるのにやっちまったと思っているだけで、プライベートで止まるなら多分、普通に楽しめる。悪口に見えても悪気はないのでご了承頂きたい。

 以前のまずい旅館もそうだけど、意外と働いている人は感じの悪くない自然体のおっちゃん、おばちゃんが多い。自然体、と言うのがポイントである。

 到着したら、まずフロントには誰もいなくて声を掛けたらおっちゃんが、はーい、と出て来る。嫌味な感じはないは億劫そうではある。部屋に案内しますと言って、奥に一度入り、おーい、案内して、と誰かに声を掛けると、今無理―みたいに女性に断られる。別にこれも棘は感じられない、多分、普通に手が離せないのだろう。でもおっちゃんはでも次のお客さん来るからさー、とか何とか説得して、多分彼の最愛の妻が仕方ないなー、と言う感じで出て来る。不思議と、本当に嫌味な感じはない。本当に仕方ないなー、と言う感じなのだろう。この前、まくら屋さんの接客に妻と二人で散々ダメ出しをしたのに、接客業にあるまじきこの状態がなぜか受け入れられてしまうのが不思議。

 で、出て来たからには案内してくれる奥様なのだが、このホテル、やたら広い。部屋まで遠い。

 これも古いホテル&旅館あるあるかも知れないが増改築を繰り返した結果、継ぎ接ぎで広くなっている。そして節電の為に暗く、奥様は通る先々で電気をつけて進む。たまに明るくなるまでに時間が掛かる電球があって、やんわりと明るくなるのを待って進む。

 RPGをしていて、初めて入る洞窟で松明の光を頼りにマッピングしているような感覚に陥る。先頭を行くのは勇気のある女勇者で、私は後ろにくっついている僧侶か何かである。

 ここで、設備紹介をしよう。多分3階建てで横に広い作りの、名前はホテルである。奥様曰く、お風呂はいつでもご自由に、との事で温泉なのだが、私は覚えている。ここの大浴場の浴槽は、なぜかタイルで大きな星形をしていて、その星形の風呂が中心にあるだけで、他にはサウナや露天風呂など、何もない風呂なのだ。

 そして、廊下から男風呂だけ擦りガラスで中の様子がぼんやり見られるようになっている。多分込み具合が分かるようにとの配慮なのだろうが、世が世ならセクハラ物である。そして、入ったら入ったで壁の一面ガラスなのだが、これは別に汚れているだけで擦りガラスでもない、下半分がスモークとかでもない。

 なかなかオープンな感覚をお持ちである。お風呂はいつでもどうぞ、と言うだけある、特に昼間に掃除をする以外、する事もないのだろう。

 出張道具の中に化粧水がある自意識過剰系のこの私に、リンスインシャンプーしか置いていないのもなかなか堂々とした提案である。

 当然全館Wi-Fiはない。広過ぎて設置も大変なのかもしれない。部屋は昔の旅館styleなので10畳の和室と仕切りがあって窓辺が板場になっていてテーブルと椅子。窓辺にあるが窓の外にある景色は、なんとも言えない川。周りが閉館した旅館ばかりでなければよかったのかも知れない。

 トイレとかお風呂は、パステルカラーのピンク。何で昭和の初めに造られた旅館とかホテルってパステルカラーが多いんだろう。きっと流行っていたんだろうな。

 今の主流はシンプルな白だが、いつかその白を見て懐かしーとか思うのか知らん。

 ポットは自分で沸かせず、お湯が保温のポッドに入っている。

 夜中とか朝とか珈琲飲むのにぬるいのは嫌だなーと思いながら気づく。

 コンセントが二口しかない。一口はストーブに使用中。一口はテレビである。つまり空いているコンセントはない。もう11月も半ばなので東北はストーブが必要だ。という事はPCや携帯を充電する為にはテレビを我慢しなければいけない…が、別にテレビを見ないのでそれは問題ない。ただ不便ではある。

 私の営業車の方がよほど便利である。コンセント二つ、それとは別にUSBの充電器二つ。iPadはBluetoothで繋がっているから音も良く車で何かを視聴する事も出来る。広くないのでエアコンも効く。まぁそんなことは比べる話でもないのは分かっている。

 この部屋ではテーブルに座って電源を入れても多分登場人物の表情とかは見えない程テレビがやたら小さいが、逆に最近のビジネスホテルはテレビがやたらで大きいだけだと気付く。何から何までコンセプトが違う。…が、何度も言うが別にテレビはどうでもいいし、ビジネスホテルではなく私の営業車と比べてしまっている当たり、そういう事ではないのだと分かる。

 部屋の隅には和室用の化粧台と座布団。すごい縦に長細くいやつ。これは白い。パステルカラーではない。

 夕飯がついているプランだったらしく、おばちゃん夕飯の時間を聞いてくる。すぐでも大丈夫ですと答えて、しばらくしすると、おばちゃん配膳してくれる。

 そう言えば、おっちゃん、朝飯がついていないという事をフロントで伝えてくれた時、不思議そうな顔で朝が早いのかと聞いてきた。

 元々出張先のホテルで朝食はほとんどとらない。ただ、朝飯の為に着替えて会場に行くのが面倒だからだが、特に今はオートファジーもあるので朝食をとる習慣自体が段々となくなっている。

 とは言え、そんなことはビジネスホテルのフロントでは聞かれない。ただ、朝食は如何ですか? と聞かれて、大丈夫です、と答えて、かしこまりました、で終了。簡潔で、フロントの方の疑問に答える必要はない。これも、味だよな、と思う。コミュニケーションが発生する。

 私も住み込みで働いていた時のメインの仕事が配膳だったことを思い出して少し懐かしくなる。お椀がいくつも乗った膳は結構な重さがあり、私の場合それを何段か重ねて持って階段を何往復もするのだから、結構な力仕事だったのを覚えている。

 おばちゃん、部屋に入るなり、トイレの水が流れ続けていたのに気づき、あれあれ、と注意を受ける。水を流すレバーが戻っていなかったらしい。

 若い人は力が強いからピヨってあれが行ったまま戻ってこないのよ。力が強いから。

 すいませんでした、と謝った。謝ったが、少し?である。

 でも彼らからしたら私も若いんだよな。と感慨深い。

 食べ終わったら下げて布団弾きますので内線9番で呼んで下さいと言われていたので、9番をかけたが、一向に出ない。1時間置いて見たが、やはり出ない。

 まぁ二人でやっているとしたら大変だよなーと思う。

 因みに、布団式もなかなかいい思い出で、あれはシーツを広げるのとか両端で二人ですると早いのだが、妻と働かせてもらった時、二人で部屋を回って、共同作業が楽しかった。今思えばおばあちゃんに交じって突然20そこそこの男女が部屋に入って来て布団を敷くのだから、私たちはオーナーの甥っ子か何かだと思われていたのじゃなかろうか。

 と考えていたからか、ようやっと善を取りに来たおばちゃんが布団を敷き始めたのを見て、なんとなく一人だと大変ですよね、私も昔やっていたんですよと手伝う。

 ではライバルですね、とよく分からないびっくり発言を受けながら、でも最近息子が手伝ってくれるから助かってますと、嬉しそうに話す彼女を見て、少し複雑な気分になる。

 息子さんと言っても私と同年代か少し若いくらい。あと20年位は働かなくてはいけない身である。

 此処で、あと10年、20年か。どのような状況で気持ちで帰って来て、どのような状況でいるのだろう。

 早朝に、寒くて目が覚めた。震えながら止まっていたストーブの電源を入れる。

 諦めて顔を洗おうとしたら洗面所が詰まっていてうまく流れない。自由に入れる風呂に行けばいいと思っているのだろう。確かに、彼らの考え方では大したことではないのかも知れない。

 もうする事もないので早くチェックアウトをした。

 おっちゃんは、やっぱり早く出るから朝飯いらなかったんだな、と納得しているのかも知れない。

 よし、とりあえず最近義務付けられたアルコールチェックをしてからエンジンをかけ、まず、コンビニを探そう。温かい珈琲を飲もう。

 追記

 グーグルマップのコメントには、レトロな感じがたまりません、とある。ビジネスホテルに泊まりたい人は避けてください、とも丁寧に書かれている。

 もっと早く言えよー、とも思うが、早く言われた所でどうしようもなかったので仕方がない。

 レトロ、レトロって何だろう。ただ古くて汚いのと、何が違うんだろう。古くて可愛げがある感じを私はレトロと認識しているが、ここ、親しみ易さは別にないし。

 いや、まぁでもレトロと言えば、風呂場の前にあったマッサージ器。これがレトロなんだろうと思う。きっとそうだ。これをレトロと言わずして何をレトロと言うのか。

 仕事で次に泊まる気はないが、たまにこういう所に泊ることになってレポートするのもいいかも知れない。

 と思って、ちょっと面白くなって館内を散策したら、非常口があって、興味本位で開けてみた。

 後悔した。ここは突然ホラーゲーム感、抜群であった。

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