妻が昔、『美味しい飲み物の会』という小さなコミュニティを立ち上げていた事を、ふと、思い出した。
結婚してすぐ、結婚式すらあげていない状態で静岡に転勤になり、私たち夫婦は縁もゆかりもない土地へ。特に地元を離れて住んだことがない妻は、さらにすぐに長男を妊娠し、その生活はとにかく大変だったと思う。
その大変な生活は、私たちの関係性を濃くした。誰も頼る人がおらず、つわりのひどい妻と二人、日々、静かに生きていた。今と比べて当然だがお金がなくて、それで揉めることもごくごくたまにだがあった。本当に苦労を掛けた。それでも、基本的には仲良く、助け合って、笑い合っていたと思う。30前の若い二人の日常。
そんな中、妻が家で慎ましく始めたのが、ミクシィか何かで始めたコミュニティで、名前を美味しい飲み物の会、会員は何人位いたのか私は覚えていない。
生活の中の一工夫で美味しい飲み物を飲む、と言う趣旨の会で、妻は写真などを取って載せる役、基本私が作る役。
と言って、難しいものを作っていたのではない。結婚祝いでもらったコーヒーマシーンにエスプレッソ機能があったのでエスプレッソをいれてみたり、派生してカフェラテやカフェモカにしてみたり、紅茶などシンプルなものや、買ってきたイチゴ味のかき氷に飲むヨーグルトを混ぜてみたり、レモネードを作ってみたり。それをどうすれば美味しく見えるかなんて相談しながら作る。まぁレモネードなんて、作ると言ってもレモン絞って砂糖混ぜるだけなんだけれども。
そして大概それらは20年近く経った今も作っている。
言えるのは、お金が掛かっていなくともその時間は私たちにとって、とても豊かな時間だったという事。
そりゃまったくただではない。今ほど高騰していないにしろコーヒー豆もレモンもかき氷も、一杯100~200円位は掛かっている。今はもっと掛かるだろう。生活に困っている人は栄養摂取以外の飲み物を贅沢と言うかも知れない。
でも、当時の私たちにとってそれは素晴らしい時間だったし、今子供たちを連れてスタバの季節限定商品を求めて行くのと比べても、私にとっては贅沢な時間だった。
苦しい時でも、苦しい苦しいと思って生活するよりも、喜びを見つけられる方がいい、なんてことはみんな分かっている。でも、それがなかなかできないから苦しい。
私も一人だったらただ寂しかったかも知れない。ただ苦しかったかも知れない。
妻と一緒だったから、幸せに来れた、としみじみあの飲み物たちを思い出すと思う。
因みに私がもらった誕生日プレゼントで嬉しかったトップ2は、その当時に妻がつわりで吐きながらも一生懸命作ってくれたクリームコロッケと、子供たちが生まれてから三人で(と言って子供たちは小学校低学年だからほとんど妻だろうが)作ってくれた短めのグレーのマフラー。次の日の早朝、私が家を出る時に長男が起きて来てくれて、私の首に巻いてくれた。
あのコロンとした大き目のコロッケと、背伸びをしながら小さい手を伸ばす長男の笑顔を、私は生涯、忘れないだろう。
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